藤村龍至氏インタビュー
JR高円寺駅前に近い商店街の一角に建設された店舗(1階)と共同住宅(2階から6階)からなる複合ビル「BUILDING K」。大胆な構造(メガ・ストラクチャー)を用いて、柱や設備機器に煩わされない空間を実現したユニークな建物です。設計者の藤村龍至さんにお話をうかがいました。


「遠くからは街になじんで近くではインパクトのある建物に」
 

この建物の周辺は、3m位の間口の狭い小さな店舗や雑居ビルが続いていますが、ここだけ全体の床面積が400坪あり、間口も15m近くあるんです。そこで遠くから見て街になじむために、細かなボリュームをタワー状に建てていくというアイデアが浮かびました。それに対して商店街の中でインパクトを出すために、1階の店舗はガラス張りにして、全体がスッと浮いているような感じを狙っています。つまり、遠くから見た感じと近くから見た感じの印象を変えているわけです。

集合住宅では一般的にRC造が多いのですが、この敷地は前面道路が狭く、工事車両等の条件もあって、当初から鉄骨造で考えました。


「メガ・ストラクチャーで設備や柱を表に出さないことが実現しました」
 

都市型のビルや集合住宅ではどうしても、バルコニーや屋上が空調室外機や給湯機などの設備置き場になってしまいます。これらを上から下まで真直ぐに通して集約できないか、そこで出てきたのがメガ・ストラクチャーの考え方です。

この建物は、構造的には5階の床に900mmの梁が入っていて、メガフロアのようになっています。そして4つのコアでこのメガフロアを下から支えて、2階から4階は上から吊り下げています。それによって1階はコア以外に柱が不要になり、大きな店舗空間が実現しました。また4つのコアの中に設備機器を納め、バルコニーや屋上に設備機器を出さないということも実現しました。

鉄骨造というと揺れるというイメージもありますが、硬いコアが入っているため、ほとんど揺れを感じません。そして、2階から4階の吊り材として機能する65mm角の柱は、120mm程度の乾式の壁の中に納まります。また梁成も小さくなるので室内に柱型や梁型が出ず、壁構造のようにすっきりとした室内空間を実現しています。つまり、メガ・ストラクチャーを導入したことで、意匠・構造・設備がマッチしたわけです。



「戸建住宅が並んだような5階では空中路地から各戸にアクセスします」
 

メガフロアの上の5階は戸建住宅が並んでいるかのように、ボリュームごとに独立したフレームを組んでいます。メガフロアが人工基盤というような考え方をしているんです。住居によって天井高を変えていて(2,100mm〜4,200mm)、中にはメゾネットの住居もあります。住宅を想定して設計しましたが、他にはない空間を狙ってみました。また、5階に共用の「空中路地」(広場)を作って、それぞれに独立してアクセスできるようにしました。

この建物では外部空間が重要なテーマでした。私は、外観に設備機器を出さないということも、建築のマナーだと考えています。外部空間をもっと生活のための空間にしたい、そういう思いから屋上に「空中路地」をつくることを考えました。



「乾式工法の防水を採用することで屋上の設計が自由になりました」
 

細かいボリュームに分けたタワー状の外観にする場合、防水をどのようにするのかが問題になりました。

それぞれのタワーはランダムに見えますが、四角く立ち上げて防水工事が簡単になるように考えました。今まで鉄骨造でこれだけ複雑なつくりは初めてだったので、床タイルの目地がどこにくるか、パラペットの切り方、笠木などについても打合せを重ねました。

構造的に軽くしたかったので、防水は乾式の工法を採用し、そのために屋上の設計が自由になりました。

また、それぞれの住居が個別に立上っていて、熱負荷が大きくなるため、断熱性能や温熱環境については、かなりシミュレーションをして、しっかりと断熱して性能を確保しました。

撮影:島村鋼一

「普通の材料を使って特別な空間をつくりたいんです」
 

この建物では、床材、壁材にしてもあまり製品を加工をせずに使っています。外壁に使用した押出成形セメント板も、フロアのシステムもデフォルトのものを使っています。特殊なデザインというより、今の社会に流通しているものを活かして特別な感じを出せないか、それらの組合わせによって新しいものを作っていきたいと思いました。

内部空間も、クロスにアルミの引き違いサッシなど、普通に作っているけれど、その裏には建築的に密度の濃い仕掛けがある、そんなふうにしたかったのです。

工業製品でも多少のムラはあると思います。程度にもよりますが、私は平滑にしすぎるよりも多少のムラのようなものがある方が建築としては自然な感じがします。たとえばこの建物でも、手摺をアルミの既製品で平滑に仕上げてもよかったのですが、スチールのドブ漬けにしたり、というような選択を全体にして普通さと特別さのバランスを取っています。


「この建物が新しい都市型建築の空間提案になればと思います」
 

実は私の事務所はこの建物の5階にあり、屋上での生活を体感しています。天気の良い日は「空中路地」にテーブルを出して食事をしたり、他の入居者とパーティをやったりもします。平らなままの屋上とは違って、ここでは建物に囲まれた感じと開放感が、ほどよい感じに混ざっています。

一般的なビルでは、屋上は生活の場所としてあまり使われませんが、マンションの付加価値を上げる場所として戦略的に利用できないかと考えました。竣工から年数を経て設備的なスペックの競争力は落ちていったとしても、「空中の共用庭」という空間的な価値が残ることは重要だと思います。

駅前再開発のような大きなプロジェクトではこのような事例もあると思いますが、このBUILDING Kでは、設計上の工夫で屋上スペースをつくり、一般的な条件のビルでも最大限の快適さを得られるように考えました。

この建物が、都市型の建築としての新しい空間モデルの提案となればと思っています。


撮影:島村鋼一

BUILDING K

【所在地】
東京都杉並区
【設計】
藤村龍至建築設計事務所
http://www.ryujifujimura.jp/
【構造】
オーノJAPAN
(担当:大野博史)
【設備】
環境エンジニアリング
(担当:鈴木悠子、平井孝典)
【施工】
建築:丸善建設工業
空調・衛生:吉田設備工業
電気:新東京エンジニアリング
【規模】
敷地面積:559.38m²
建築面積:346.02m²
延床面積:1,611.37m²
階数:地上6階
最高高:19,788mm
軒高:19,468mm
地域地区:商業地域・防火地域
【構造】
鉄骨造
場所打ちコンクリート杭
【外部仕上げ】
屋根:アスファルト防水
外壁:押出成形セメント板
開口部:アルミサッシ
外構:透水性アスファルト


 ◆ プロフィール

藤村龍至 / 藤村龍至建築設計事務所

1976 東京生まれ
2002 東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了
2002-2003 ベルラーヘ・インスティテュート(オランダ)
2005 藤村龍至建築設計事務所設立
2008 東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻博士課程単位取得退学

2002年より、ウェブサイトround about journalの運営、フリーペーパーROUND ABOUT JOURNALの制作・発行、イベントLIVE ROUND ABOUT JOURNALの企画・制作を行う。

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