平田晃久氏インタビュー
「イエノイエ」は、2008年9月13日から11月30日まで横浜市内で開催された現代アートの国際展「横浜トリエンナーレ2008」のインフォメーションセンターとして設置された住宅のプロトタイプです。まるで違う形の小さな家が合体したように見え、また、屋根と壁との区別がなく一体化した、アスファルトシングル仕上げの外観も大きな特徴です。
設計者の平田晃久さんに、「イエノイエ」の発想の原点や、アスファルトシングルについてなど、お話を伺いました。
「イエノイエ」の発想
 

「イエノイエ」は、「家型」をテーマにしたプロジェクトから生まれました。3人家族が住むことを想定していますが、形状は人数分のピーク(頂上部)、折れ線があるというところから発想しています。上の方は独立しているけれど下は繋がっていて、人間同士が一緒に住んでいるけれども、それぞれの関係は独立していることを表しているのです。

屋根の切れ目が交差する真ん中に柱を置き、その柱と外壁を結ぶように梁が入り、この線が谷になる。その屋根が尾根を持ち、それが同じ方向には向かずにちょっと変化があるようにすると、谷と尾根を結ぶ位置が決まります。それで形が形成されるのです。ですから非常にシンプルな方法で形は決まっています。

内部では柱と外壁の柱を繋いでいる梁が露出していて、そこに向かって谷が落ちてきています。2階では、それがちょうど隣室との区切りになっています。屋根の谷線は完全にお互いの関係を切ってしまうのではなくて、ひだ状に繋がっていく空間の関係を作っています。


屋根が生み出す多彩な内部空間
 

1階には、吹抜けになっているリビング以外、ダイニングや他のスペースは壁で囲われた独立した空間になっています。2階は書斎、茶室、キッズルームの3室。各部屋に上がるためにそれぞれ専用の階段があります。

山脈に見立てた複数の小さな屋根の連なりが、家の内部空間にも影響を与えています。

2階の各部屋は壁で仕切るのではなく、屋根の稜線で緩やかに分けられていて、プライバシーが守られながらオープンさも併せ持っています。屋根に開けられた窓から外の景色が見えたり、他の部屋がまるで隣の家のように見えたり、でも声はすぐそこから聞こえてくる……プランはとてもシンプルなのですが、これらの屋根によって一つの家の中にいろいろな空間や見え方が生まれています。


撮影=Nacasa&Partners
水の流れる自然の地形からヒントを得る
 

私には、屋根と水が流れることによってできる自然の地形は、同じようなものだというイメージがあります。

ピークと谷線があり、水が流れる自然の地形と同じように、屋根を谷と尾根によって作ることを考えました。そして、今回は尾根と谷をもう少し内部空間との関係性についてまで応用してみて、屋根の中にダイレクトに住んでいるという状態を作りました。

実際には、自然界での水の流れ方は立体的でねじれたようになっています。内部空間も、その自然界の水の流れと同様に考えて「イエノイエ」の複雑な形につながっていきました。


屋根と壁を一体的に考える
 

屋根の仕上げにはアスファルトシングルを採用しました。アスファルトシングルは、表面のテクスチャーには風合いがあり、適度にざらざらしていて、パターンで貼られていくと、古い建築の様態にも似ているけれど、現代的で工業製品的な素材でもある。そういう中間的な様相が面白いと思っていました。

以前から屋根をつくるのであれば、アスファルトシングルを使って何かできないか、さらに屋根と壁を一体的に作るということを考えていました。これまではプロジェクトだけで終わったものもありますが、今回は屋根材と壁材を一体として使うチャンスだったので、それを活かしてみたのです。


撮影=Nacasa&Partners
柔らかさを表現する
 

アスファルトシングルの貼り方は、標準的なものにしました。ただし、柔らかい雰囲気を出したかったので、コーナー部分はアスファルトシングル本体をカットして作成した棟用シングルを増し張りすることにより角がシャープになりすぎないようにしました。回り込んでいるところに、ややラウンドした雰囲気がでるところが面白いと思っていて、外壁と外壁が取り合う出隅部分の下地補強も丸くしたのです。

それは、柔らかい表情が意図しなくても出ることが面白いので、それを消さないでほしいと思ったからです。もう少し下地であらかじめ工夫をしておけば、屋根が生き物に見えるような表情もかなり作れるという気がします。


アスファルトシングルの面白さ
 

アスファルトシングルの面白さにはいくつかあります。防水を考えると通常はアスファルト防水・シート防水のように、末端のところにディテールが発生して、そこが重たく見えてきます。そういう重たいディテールを活かすデザインもありますが、アスファルトシングルのように要素に分割されている防水材は、1つ1つ貼っていってそれが集積して全体としての防水面ができます。つまりどこかに集中したディテールが発生しにくく、それは現代建築的な発想に合っていると思います。「イエノイエ」では全体を同じ方法で覆っていくという考え方だったので、アスファルトシングル葺きを選択しました。

「イエノイエ」の屋根は、稜線は内側に向かっていて、谷線が外を向いています。その谷のラインのところに水が流れるのですが、そこが設計者としては一番心配なところだったので、そこには防水材を二重にするという処理をしました。


撮影=Nacasa&Partners
アスファルトシングルの可能性
 

アスファルトシングルは、カッターで切れるほど柔軟性をもち、現場でも加工が可能です。また、素材が柔らかいということは他の屋根材にはない特徴です。色や組み合わせ方にもバリエーションができそうなので1つの建物の中で同じ素材でありながら、違う使い方を工夫することもできそうです。

自然素材の葺き材では、表面が乱れたり、けばだったりといった表情が出てきますが、これを工業製品としてできたら結構面白いと思います。また、こういうものに興味がある人も多いのではないでしょうか。

「イエノイエ」は今後、雪国でも展開できるのではないかと思っていますが、その際は防水材の性能が大きく影響してきます。屋根の谷の部分の防水をグレードアップすることで、可能性が拡がると思います。

アスファルトシングルは、屋根を保護するという素材の特性をもちながら、外観上のねらいを実現できる可能性をもった、今後も期待できる素材なのではないかと思います。


 ◆ プロフィール

平田晃久 / 平田晃久建築設計事務所

1971 大阪府生まれ
1994 京都大学工学部建築学科卒業
1997 同大学大学院工学研究科修了
1997-2005 伊東豊雄建築設計事務所
2005 平田晃久建築設計事務所設立
2005- 京都造形芸術大学非常勤講師
2006- 日本大学、東京理科大学非常勤講師

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