塚本由晴氏インタビュー
軽井沢に5人の建築家がそれぞれ設計した、個性豊かな5つの建売分譲別荘が完成しました。そのひとつがアトリエ・ワン設計の「ダブル・チムニー」。正方形を対角線で2つに割って開いたような形が特徴的です。その名の通り、2つのボリュームからそれぞれ煙突が立っています。屋根から延びるアスファルトシングルの薄さ3.2mmの庇には、雑誌掲載時から大きな反響がありました。設計者のアトリエ・ワン塚本由晴さんにお話をうかがいました。
樹木を生かすために建物を分割
 

5つの別荘は配置も自由で、敷地割だけが与えられていました。敷地中央にはナラやクヌギなど大きくて印象的な樹木があり、これをそのまま生かしたいと思い、その解決方法として、正方形平面にマンサード屋根をかけて対角線に沿って分割して90度開きました。そうすると切り口に、中折れの切妻屋根が現れました。

北側から見ると、外壁は唐松縁甲板の横羽目張りで黒く塗り、黒いアスファルトシングルで仕上げた屋根や煙突と一体化した姿が、森の中に溶け込みひっそりと佇んでいます。それと対照的に、黒いかたまりを割った面の2階は、唐松縁甲板を今度は縦羽目貼りにして明るい木の色で仕上げています。1階は庭に面した部分全体を開口部にしているので、庭の木々がとても近くに感じられます。

平面的には2つの三角形がつながったような形になり、その接合部に鉄骨柱を1本立てることで、室内に柱が現れず、広々とした空間になっています。




できるだけ薄い庇になるように
 

1つのかたまりを2つに割ったような建物なので、最初、切り口の屋根には庇を出さずに窓の上に付けようとしていました。ところが、軽井沢では屋根から庇を出さなければならないという決まりがあるのです。庇に厚みが出たら致命的ですので、それなら鉄板でやるしかないということになりました。3.2mmの鉄板にシングルをかぶせて、小口のほんの5〜6mm手前で留めています。庇の出は510mmで、水勾配を1/50取っています。

結果的にうまくいって、アスファルトシングルの特徴である柔らかさと、シャープさの両方を出せたのではないかと思います。


生き物のような柔らかい建物を作りたい
 

アスファルトシングルというと、以前は柔らかくてもあまりシャープではないなあというイメージがあって、私も板金の屋根にすることが多かったんです。でも、だんだんもう少し複雑な面や、縫い合わせたような屋根を作るようになってきて、そうなるとアスファルトシングルは板金よりも圧倒的に追随性に長け、処理がしやすいのです。

私たちは大きな動物や生き物のような柔らかい建物を作りたいのです。その際、アスファルトシングルは緩勾配から壁面までカバーできるので、表面を一体的に作れる面白い材料だとして見直しています。

今回もマンサード屋根と煙突の取り合うねじれた面をつくるのに小さなウロコ状の形がとても納まりが良かったです。通常アスファルトシングルは天然スレートのような形状をしていますが、もっと大胆にウロコ状のものを出したら面白いかもしれませんね。




以前からアスファルトシングルを使用
 

今までの「ノラハウス」や「鶴山荘」などの作品にも、アスファルトシングルを使用しています。自宅兼事務所「ハウス&アトリエ・ワン」の、壁のようにおおった屋根・軒にも使っていますが、厚みが欲しかったのでムクで4mmのものを選びました。赤錆色に黄色が入ったフランス製のものです。外国製のものは色のバリエーションが多く、基材が入っていないので、剥離の心配がなく長持ちすると言われました。

日本のアスファルトシングルは、今は剥離の問題が少なくなったようすが、色やテクスチャーのバリエーションがあれば、もっと選択しやすいのではと思います。


新しい表現の可能性をもった材料
 

アスファルトシングルは他の屋根材にはない柔らかさを持っているので、伝統的な日本の柔らかい屋根に意外に近いのではないかと思っています。追隋性も良く生き物の肌のように使える可能性もあるかもしれません。

ところが残念なことに、新しい面白い使い方をしようとしても、施工者の技術力がなかなかそれについてこないのが現状です。例えば檜皮葺きのような表現もできるかもしれません。そういうことも実現する技術力がついてくるといいですね。
また、都内では下地材に不燃材を使用していても、延焼の恐れのある部分では壁に使用できません。屋根・壁を一体的に作りたい場合、ネックになっています。そのようなことをクリアしていければ、もっと表現の幅が広がっていくのではないでしょうか。

日本の都市の風景のことを考えると、屋根はとても大事です。これからも屋根のことをちゃんと考えていかないといけないと思います。その際、アスファルトルーフィングはとても活用できる屋根材として、大きな可能性を持っているのではないでしょうか。



 ◆ プロフィール

塚本由晴 / アトリエ・ワン

1965 神奈川県生まれ
1987 東京工業大学工学部建築学科卒
1987-88 パリ建築大学ベルビル校(U.P.8)
1992 貝島桃代とアトリエ・ワン設立
1994 東京工業大学大学院博士課程修了、博士(工学)
2000- 同大学大学院准教授
2003,2007 ハーバード大学大学院客員教員
2007,2008 UCLA客員准教授

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